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高校転校したい人に伝えたい「前向き転編入のススメ」 転入生体験談と担当教員の面談エピソード

「転校生」と聞くと思い浮かべる特別なイメージはここでは無縁。転入生の面談を担当する教員と、充実した高校生活を送る“元転入生”に話を聞いた。

目次

本人にとっては一大事。でも転入は特別じゃない

年間を通じて、多くの転入生・編入生を受け入れているクラーク記念国際高等学校。2021年度から同校で始まった「進路指導主事制度」は、転編入希望者やその保護者と行う面談を主に担当する、高度な対話力・提案力を備えた教員の育成制度だ。

初年度は研修を実施するとともに、これまでの実績などを参考に、全国で13名の進路指導主事が任命された。 CLARK SMART千葉の副キャンパス長を務める岩崎毅先生も、その一人。岩崎先生が担当する転入面談は年間30〜40件で、特に問い合わせが多いゴールデンウィーク、夏休み、年度末の長期休暇明け前には、週に2、3回の面談を受け持つこともあるという。

「当キャンパスには多くの転入生がいますので、転入は特別なことではありません。生徒からしても、取っている授業がそれぞれ違うので、どの子が転入生かわからないと思います」と岩崎先生は語る。

「とはいえ、本人からすれば転校は人生を変えるほどの一大事。面談ではそのことを常に忘れないよう心がけていますし、面談を通して生徒や保護者の方が抱えている不安を、少しでも取り除くことができれば嬉しいです。今はオンライン面談も対応していますが、キャンパスや教員、生徒の雰囲気を見たいと言う方は、ぜひ来校してください」(岩崎先生)

まじめだからこそ「理想」と「現実」のギャップに苦しむ

転入面談には、人間関係でトラブルを抱えた生徒や学校に通えない生徒も訪れる。その背景にある事情や受け止め方はそれぞれだが、岩崎先生は転入生によく見られる傾向として「理想と現実のギャップに苦しんでいる」ことを挙げる。

「例えば朝起きられなくて学校を休んでしまったとき、『ま、いいか』と思えず、『どうして起きられなかったんだろう』『また勉強が遅れてしまう』と悩んでしまうまじめな子が、転入生には多いように感じます。悩むと体が動かなくなってまた学校に行かれなくなるから、さらに悩みが深くなる。そういうお子さんの様子を見て、我が子だけが特別変わっていると心配される保護者の方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。そういった生徒が環境や学校との関わり方を変えたことで驚くほど変化する様子を、私はこれまでにたくさん見てきました」(岩崎先生)

面談は思いを吐き出し、気持ちを整理するきっかけにもなる

転入を考える生徒の多くは複数の選択肢を検討しているため、面談後にクラーク国際とは別の学校に進学する生徒や、元の学校に残ることを決断する生徒もいる。特に、生徒が保護者や教員に辛い現状を伝えられないまま学校に通えなくなっている場合は、転入面談で思いを吐き出すことで、前向きな感情が生まれることがあるのだという。転入面談の1週間後には必ず生徒に電話をかけるという岩崎先生も、「保護者の方から嬉しそうに『先生に面談をしてもらってから、頑張って学校に行くようになりました』と言われること、あるんですよ!」と笑う。

「もちろん、クラーク国際が多くの生徒にとってベストな選択肢になるように頑張っていますが、どの子にとっても100点満点の学校になることはできません。だからこそ、面談で私と話したことが何らかの形で生徒の心に響き、今の学校でやってみようと思ってくれたのなら、それはそれでとても嬉しいことです」(岩崎先生)

元転入生2人が語る、クラーク国際へ来た理由

1年生の6月からクラークに転入した伊藤さんは、現在スマートスタディIIの3年生。面談を担当したのは、岩崎先生だった。

「転校した理由は2つあります。1つは当時通っていた高校が自主学習をとても重視していたので、どうせ自分で勉強するなら計画も全部自分で立てた方が成長できるんじゃないか、と思ったこと。もう一つは学校のカラーが自分に合わなくて、なんとなく息苦しかったことです。転校して前に進めるなら、それはマイナスではないし、逃げでもありません。合わないと感じたら、違う手段を選ぶのは全然あり。私も自分に合わない環境で3年間過ごすより、思い切って学校を変えちゃおう!自分のやりたいことをやろう!という気持ちでした」(伊藤さん)

2年生の湯浅さんは、今年の4月からスマートスタディIIを受講している。以前は進学校に在籍していたが、体調不良により登校できない日が続き、いつしか毎日朝から夕方まで学校で過ごす生活そのものが辛く感じるようになったと話す。

「クラーク国際に来てからは自由に、自分の好きな方法で生活ができています。こう言うとサボっているように聞こえるかもしれませんが(笑)そうではなくて、自分の好きなように生活のパターンを組める、という感じ。中学生のころに買ったのにずっと触る時間すらなかったギターも、この学校に入ってやっと練習する時間が持てました」

毎週の「コーチング」で転入後のフォローに

東京オリンピックの期間中に世界の料理をSNSで発信する企画を自ら立ち上げたり、PBL(Project Based Learning=問題解決型の授業)のグループワークで友人の輪を広げたり、人とのつながりを積極的に楽しむ伊藤さんと、登校は基本的にスクーリングの日のみ、オンライン授業で自分の時間を確保しながら音楽やゲームといった趣味にコツコツと取り組む湯浅さん。まったく異なる学習スタイルの生徒が、それぞれ自分らしさを失わずに学びを継続できる理由の一つは、スマートスタディコースの特色である「コーチング」にある。コーチングとは、「コーチ」との対話を通じて自らの答えを引き出し、目標達成を目指す手法のこと。スマートスタディコースでは週に1度、コーチング専任の教員が生徒とマンツーマンで面談を行い、それぞれに合った学びや成長を支援している。

「かっちりカリキュラムに沿った授業だけだと、興味ないことはやりたくないと投げ出す生徒や、不本意なまま授業に臨んだ結果、心や体に影響が表れる生徒が出てくることも。コーチングでそれぞれの生徒に合った成長を促していくことは、転入後のフォローにつながっていると思います」(岩崎先生)

「前の学校のことは、聞かれたことがない」

伊藤さん、湯浅さんともに「想像と違った」こととしてあげるのが、転入生に対する他生徒の反応だ。
「雑談のなかで前の学校のことを話すことはあるけど、前どの学校にいたとか、なんでクラーク国際に来たとか、そういうことが話題になることはないですね。クラーク国際は転入生が多いし、そもそも話をしている時点で、その子はもう“この学校の人”だから。授業中話しかけた同級生が実は先月入った子だった、ということもあります」(伊藤さん)
「転入前のことは、本当に聞かれないですね。入学前は心配も多少あったけど、誰も気にしてないからこっちも気にならなくなりました」(湯浅さん)

進路の結論はせかさず、粘り強く対応する

大学ではメディア社会学を学びたいという伊藤さんは、現在、志望校選びの真っ最中。卒業後の進路決めについても、「じっくり考える時間が取れるので、自分のやりたいことに合う進学先が選べる」というのが、2人の共通の意見だ。岩崎先生と同じく、進路指導主事としてCLARK SMART千葉で転入面談を担当する佐藤友基先生は、スマートスタディコースの進路指導について、「1年生はこの話、2年生はこの話というある程度のガイドラインに沿って進めていますが、結論を急ぐことは言いません。生徒が自分の進路をある程度見極めてから、教員や保護者の方も一緒に落とし所を見つけるのがいい流れだと思っています」と説明する。

1年生の進路指導で重視するのは、生徒がしたいと思っていることができているかどうか。例えば勉強記録を毎日1時間つけたいと思っているのならば、それが当たり前にできるようになることが目標になる。

「1年生ではコーチングの教員と一緒に設定した資格検定などの個別目標も達成してほしいですね。大学を目指すならば、2年生からは模試を受けるなどの具体的な準備も少しずつ始めて、3年生になるころには大学で学びたいことの概要が見えているのがベスト。その時点で進路が決まっていない生徒は、粘り強くフォローしていきます」(佐藤先生)

近年、CLARK SMART千葉の卒業生は約半数が4年制大学に進学しており、これは2020年度の県内公立高校から4年制大学に進学した生徒の割合(45.6%)を上回っている。※https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/seisaku/toukeidata/shinro/r2.html(千葉県ホームページ 令和2年度-進路状況調査、各種統計数値、II高等学校「卒業後の状況」より)

「転入生が友達を作って、楽しそうに話しているところを見ると、安心します」と笑顔で語る佐藤先生。
「転入面談では、『この学校は自分のやりたいことを実現できる場だよ』と、生徒に話しています。生徒から笑顔や前向きな言葉が出てくると、親御さんの表情も明るくなる。今辛い状況にある生徒や保護者の方には、転入がきっかけで心機一転し、いい方向に進み始める生徒がたくさんいることを、知っていただきたいですね」(佐藤先生)

辛い「今」が始まりじゃない。未来から自分を眺めて

 転入後の生徒がいきいきと高校生活を送ることは、生徒本人、家族だけでなく、周囲で見守る教員や学校スタッフにも大きな喜びにつながる。19年前にクラーク国際に来て以来、さまざまな事情で学校に通いづらくなった生徒やその保護者のサポートに携わる広島キャンパスの進路指導主事、瀬尾良乃先生も、「転入後に生徒が変わっていく様子を見るのは本当に嬉しいし、元気をもらえます。私、この仕事は天職と思っているんです」と話す。

「転入面談では、辛い気持ちを抱えた『今』ではなく、『少し近い未来』から自分を眺めてほしいと子どもたちに伝えています。苦しい『今』でぎゅっと固まるんじゃなくて、もともとの自分が思い描いていた未来を目指そう、そこに近づくために、ここのキャンパスの先生たちは応援ができるよ、と」(瀬尾先生) 

あるとき広島キャンパスに転入してきた生徒は、小学校時代から登校が定着していなかったこともあり、自宅には小5から中3までの通信教材が手付かずのまま残されていた。

「その子は本が好きで、ちょっとした成功体験を得てほしいという思いがありました。やり残してきた教材を全てやり切ろうと計画を立て、私から漢検を提案してみました。高校1年生でしたが、スタートは小学校3年生レベルの8級から。8級に合格したら楽しくなって、次は6級、3級と挑戦して、最後は高校卒業レベルの2級に合格しました。卒業後は大学へ進み、本に関わる仕事に就きたいという夢も叶えました」(瀬尾先生)

こんなエピソードもある。クラーク国際に転入してきたある生徒は、高い学力を持っていたために他者を認める事が出来ず、良好な人間関係を築くことが難しかった。そんな生徒に瀬尾先生が提案したのが、クラーク国際のオーストラリアキャンパスへの留学だった。

「オーストラリアキャンパスに信頼する先生がいらしたことも、留学を勧めた理由の一つです。海外で自分よりももっと勉強ができる人や英語を使って世界を広げている人に出会ったことが、その生徒の心に火をつけたのでしょう。4カ月の予定で渡航したのですが、本人の希望で11カ月まで期間を延長し、帰国後は当初の希望よりも難易度の高い大学に合格。人間的にも大きく成長し、周りを驚かせてくれました」(瀬尾先生)

来校時は教室になかなか入れない生徒、保護者の後ろに隠れるように登校してくる生徒も、珍しくはない。そういった生徒が数カ月後、友だちと楽しそうに会話をしていたり、嬉しそうに近況を報告してきたりする光景を、瀬尾先生は何度も目にしてきた。

「同級生から『おはよう』と声をかけられたことで、他者とかかわることを諦めていた子がガラッと変わったこともあります。来校生や保護者の方には、あんな子がいたよ、こんな子もいたよ、でもみんな変わることができたよっていう話をしてあげたいし、実際に校舎に来て生徒の様子を見てもらいたいです」

取材・文/木下昌子

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